当社の塗装方法は、塗料、塗装工程もまったく独自に開発したもので、変色を抑え手垢等がつきにくく、
これまでの桐たんすの優雅さを損なうことなく、桐の呼吸(木材伸縮)に対応出来る画期的塗装方法です。
桐たんすを製造し始めた当初、伝統の桐たんすには超えなくてはならない壁がありました。
伝統の製法の桐たんすにはトノコを夜叉の実の煮汁で溶き、それを何度も塗り重ね、ロウでしっかり磨き仕上げていきます。
数十年と年月が経てば、やがて砥の粉が剥がれ落ち、夜叉の実の煮汁と紫外線で染まった茶色味掛かった木生地が露わになります。
また丹精込めて作った桐たんすは、住環境や使用方法によって、桐たんすの表面は手垢が付き、シミやカビが発生してしまう場合が多くありました。
そんな様子を見ていると、「こうならないように、なんとか出来んもんか」と心が痛んでいました。
ではなぜ、桐たんすはそんなシビアな仕上げだったのでしょうか?
トノコは導管を塞ぎ木材面を平らにする事や、桐材の色むらを隠すことができ、また和とマッチする優雅な風合いをもたらしてくれます。
防炎効果があるとされ火に強く、カビやシミなどの生じる弊害より、中の物を守ることを優先に考え、少しでも火災から守れるようにと先人の知恵だったのかもしれません。
桐たんすは、変色やカビ・シミを起こしてしまえば、原則的に部分修理は不可能です。
トノコには「赤砥粉、黄砥粉、白砥粉、他」種類があり、さらに生産地によって違うため職人さんの裁量によって配合が決まっています。
さらに塗った時の温度湿度によっても左右され、仮に色が合ったとしても時間が経つと次第に変化が起こるため古い色と新しい色の違いが現れてきてしまいます。
当社では、従来塗装の欠点と言える面に着目し塗装方法を改善するため、伝統の縛りから抜け出し歳月を掛けて新しい塗装法の開発をしました。
お客様が気軽に桐たんすを扱えるよう、より末永く品質を維持出来るように、桐の呼吸(木材伸縮)に耐える表面特殊加工を1985年頃から施しています。
品質改良を重ね2001年に桐たんすの「表面特殊加工」は、実用新案登録(3079332号)を取得し、桐たんす業界に新しい塗装方法をもたらしました。
伝統的な仕上げがよいか、現代塗装が良いか判断に迷われます。
当社でもお客様にお話しさせていただいておりますが、桐たんすで最も重要な事は、まず第一に中の物を守ることにあります。
気密性に長けた精度が最重要ですので、ご購入の際はこの事を念頭に置かれてください。
ではここからは表面の仕上げについてお話ししますね。
耐久性・防湿性・膨張性・防炎性・防汚性・メンテナンス性が着眼すべきところです。
私達がよく耳にする表面加工は以下となります。
・伝統の砥の粉ロウ仕上げ (伝統塗装)
・当社の表面特殊加工 (現代塗装)
・砥の粉仕上げ+防汚対策クリア塗装 (伝統+現代)
※当社の実用新案開示以降に増えてきた加工で防かび剤やクリア塗装の種類が様々あり不明確なため取り上げません。
・オイル塗装 (現代塗装)
オイル塗装は以前からありますが、近年桐たんすにもオイルフィニッシュが採用されています。
まず現代塗装と聞くと、このような疑問が出るかと思います。
「塗膜で覆っても呼吸をしますか?」
この木材の呼吸の点について実際どうなのかご説明させていただきますね。
それではメリット・デメリット考察していきます。
伝統塗装は、伝統工芸士による伝統の製法によって伝統的工芸品(伝統工芸品)として大変評価されている、伝え継がれる桐たんすの加工です。
基本的な工程は、トノコを夜叉の実の煮汁で溶き、それを何度も塗り重ねロウでしっかり磨き仕上げていきます。
吸湿性も高く、放湿性も高いため、桐たんすが反応し引出の隙間を塞ぐ反応は最も早いと考えられます。またトノコに耐火性があるため防炎効果も高められています。
この製法による桐たんすの優雅さは誰もが納得するほど。桐たんすの神髄と言える王道の仕上げです。木材から塗装面は天然材料であるため安心出来ますね。
桐たんすの伸縮に関しては、まずは木材の呼吸の事について知る必要があります。 木は光合成として呼吸しますが、木材は呼吸をしていません。
木材の呼吸とは、室内の湿度や温度などの環境変化に影響されて伸縮する事を比喩的に例えられています。
「呼吸」という言い方は、通説となっているため、この正しい認識が必要です。
つまり環境変化をうける状態であることが呼吸する条件となります。
トノコと言うものは石の微粒子であるため、桐材の導管を埋める事になりますが塗料と違い完全ではありません。
その為、伝統塗装は湿気等影響を受けやすく木材の伸縮(呼吸)には優位と言えます。
また仕上げに撥水性のあるロウをすり込むのは、艶を持たせることや過剰な湿気の吸収を阻害する効果などもあり先人の工夫が感じられます。
伝統塗装のデメリットとしては、表面を素手で触ることは出来ないため、日頃のお掃除は柔らかいハタキでホコリを落とす程度。
塗装面に素手で触れてしまった場合は手垢によるシミの原因となります。また経年変化において、ロウが吸収分散されたり、
揮発発散する事で塗装面が弱くなりトノコが剥がれ落ち、夜叉煮汁や紫外線で染まった茶色い生地が露わになるのは仕方ないことです。
吸放湿性が高いがゆえ、設置環境によってはカビが繁殖する可能性があります。トノコ仕上げは湿気の影響を受けやすいことで、付着したカビ菌が増殖しやすくなります。
そうなってしまっては気持ちがよいものではありません。基本的には部分修理ができないため、たんす全体を「再生(洗い替え)」新しく塗装を行う事になります。
この為、大変取り扱いが難しいと言えます。
昔から桐たんすにはこのような問題があり、悲しむ方が多かったと言います。当社が1977年から桐たんす製造を開始すると、このデメリットに真っ先に着目し、お客様の元で桐たんすが末永く美しく保てるように開発を行いました。数々の試行錯誤のなかで、伝統の仕上げに拘っていては先には進めないと判断し一般に普及している現代塗料を利用することになりました。1980年頃には、表面特殊加工の基盤が出来上がりましたが企業秘密として公になっていませんでした。それからさらに開発を重ね2001年には実用新案を取得して公に知られることになりました。
では、当社が何故、現代塗料を採用するに至ったか、その理由と現代塗装のメリット・デメリットを含めご説明いたします。
まず第一に、桐の性質を理解することが必要です。桐は大変狂いにくい材料で伸縮率は0.3~0.5%、100mm幅の板材で0.3mm~0.5mmと大変変化が少ないです。
その為、精密な桐たんすを作ることが出来ます。この変化こそが桐たんすにとって最も重要となり、湿度変化に置いて細やかに伸縮する事で湿気の流入を抑制しています。
当社の現代塗装は、ご想像のように塗膜で覆っている部分には表面の吸湿性はありません。しかしこの場合でも桐材は膨張する事が出来ます。
何故なら湿気というものは、大気中にナノ単位の水分粒子で漂っているためどのような隙間からも侵入することができます。
木材に水分が浸み込む方法は3通りあり、毛管現象により細胞組織を通る液体、細胞組織を通る蒸気、細胞壁を通る分子拡散の3通りです。
桐たんすの伸縮反応は主に、細胞組織を通る蒸気(湿気)と、細胞壁を通る分子拡散が影響していると考える事が出来ます。
もう少し詳しくお伝えしますね。
まず細胞組織を通る蒸気については、水分が蒸気となり木材を移動する事を指しています。
分子拡散とは、木材に不均一な濃度分布がある際に水分子レベルで均一に調和しようとする働きです。
また木材の伸縮については湿度だけが要因ではなく木材含水や温度でも影響します。
伝統塗装でも現代塗装でも、どちらの桐たんすでも引出が開くための実用性が必要であり、そのため隙間が厳格にゼロになる調整は行いません。
いっけん隙間がないように見えますが、コンマ数ミリ単位での隙間からも放湿が行われています。
湿度状況や製品精度によって隙間の変化量は変わります。これはつまり精度が高いほど湿度影響が少ないため変化も少なくなります。
この微々たる隙間から湿気が侵入することや温度など環境変化によって伸縮反応が起こります。
この為、当社の表面特殊加工の現代塗装では表面のみを塗膜で覆っているので、伝統塗装に比べると環境伸縮(呼吸)効果は控えめになります。
しかし、ここがポイントになりますが、伸縮率が控えめになると言うことは、桐材がより変化の少ない安定した状態になると言う裏返しなのです。
つまり、その伸縮を見越し引出の調整を行っているため調湿性はあり、伝統塗装と比較しても遜色(そんしょく)はないと判断出来ます。
耐火性については、現代塗装は炎の熱で溶け揮発します。 一方、伝統塗装のトノコは耐火性はあるものの基本的に補助的なものと考えて良いでしょう。
その為、塗面から得られる防炎効果より、桐材自体に備わっている耐火性に着目すべきです。杉の着火点180℃ 、発火点240℃ です。
桐の着火点は、270℃で発火点425℃と桁違いに熱に強い素材です。消火活動で水が掛かれば、なお燃えにくくなります。
桐たんすの一番の問題点であるカビや手垢など防汚性については、圧倒的に当社の"表面特殊加工"の現代塗装に軍配があがります。
素手で触れることもでき、簡単な汚れは消しゴムで消したり、柔らかいタオルを石けん水で濡らし、固く絞って拭き取る事も出来ます。
清掃が出来ることもありカビは大変付きづらくなります。
当社が、桐たんすの威風堂々とした優雅なおもむきを決して損なわないようにと大切にしたのはトノコでした。
表面特殊加工の工程概要は、まず桐の美しい木目を活かすため、伝統的に行われている浮造り(木目だし)を行い、下塗りを2回に分けて行います。
独自の配合や使用方法で溶いたトノコを乗せ木目を引き立たせたら、仕上げとなる上塗りを2回。1つの工程毎に丁寧に仕上げております。
トノコが持つ風合いは日本人にとても馴染み深く、和のイメージを強く引き立ててくれます。これによって、当社の表面特殊加工が和のおもむきを表現します。
安全性にも配慮し、国で定められている安全基準をクリアしているホルムアルデヒド放散等級F☆☆☆☆塗料を使用。
また、イソシアネート、トルエン、鉛化合物などの有害物質フリーです。
塗料には伸縮性があり桐の木材伸縮を阻害せず経年変化で塗膜が割れることがありません。
桐の性質を理解することによって、現代塗装であっても、桐たんすの機能性や優雅さを損なわず、耐久性のある扱いやすい桐たんすとなりました。
二十数年前にご購入いただいたお客様から、再度ご購入していただきまして、納品でお伺いした際に「和光さんの桐たんすは、ホントに変わらなくていつまでもキレイですよ」とニコニコしながら自慢げに見せていただきました。それはまるで、つい先日仕上げたかのように綺麗で美しく、私達も驚いたほど。
お客様が大切に扱ってくださっていたことに感激と感謝し自社の表面特殊加工の明確な自信となりました。
日頃からお使いになられるお客様が安心して気軽に桐たんすをご利用いただけるように、桐を理解し研究を重ね、お客様へお届けしています。
小さいお子様やお孫さんが安易に触ってしまっても拭き取っていただくことが出来ますのでご安心ください。
冒頭に申しましたように、塗装の差という物は桐たんすの補助的要素です。
この為、伝統塗装であっても現代塗装であっても、物を守るためにはそもそもの桐たんすの精度があってのこととご理解ください。
このページで、当社の表面特殊加工のご理解をいただければ幸いです。
この他にも桐の魅力についてのご紹介があります。→こちら